米田透 俳句集(2001年)

響焔2001年1月号(No.391)

新同人紹介

ビール祭         
              米田 透

朝の霧ドイツ語標識浮かび出る
ミュンヘンの元選手村青林檎
隣国の旨い酢キャベツ秋の雲
鳥の絵に霊あり秋の美術館
ビール祭丸焼きチキン塩効いて
音楽とじゃがいも料理バイエルン
ドイツ人の仏舎落慶秋の虹

抱負

この度は響焔同人にご推薦頂きありがとうございます。
単身赴任先のフランスの事情を家族に報告するための
日記俳句が私の俳句の原点です。ただ見ただけの句
ではなく、詩になっていることが大切と、先生・先輩方
からご指導頂く毎日ですが、詩とは何かがわかっておら
ず、試行錯誤の毎日です。妻や田中幹雄氏と席題を
出し合って句を作ることもやり始めましたが、席題の
場合は記憶の中にある情景を思い出すなどかなり
自由な発想で作句ができることに気付きました。帰任
後は句会に出て座の文学を学びたいと思います。なお、
上記七句はドイツ詠でまとめてみました。

略歴

昭和二十一年九月十八日生 東京都出身
平成七年九月響焔入会 活動は主としてフランスからの投句
ホームページはhttp://members.aol.com/yonedatoru/haiku/


白焔集

秋の一日

平穏な秋の一日電子辞書
この国を去ること思う夜長かな
捨てるもの捨てにくいもの銀杏散る
秋の昼路面電車の試運転
コーヒーの後葉巻出て秋の雲 (伊関葉子抄出)

白灯集

秋晴れの教会鐘が連打され
残務処理静かに進め吾亦紅
黒服の女性弁護士露の玉
秋寒し五十四歳何をする
フランス人と合気道秋深し


響焔2001年2月号(No.392)

白焔集

晩秋

ユーロスターのろのろ運転秋の暮
ロンドンの秋の盛り場紅茶買う
シャンゼリゼ歩き通して末の秋 (和知喜八抄出)
万聖節ゆっくり起きてクロワッサン
ハムチーズ棒パンサンド文化の日


白灯集

ひとつずつ仕事にけじめ夕時雨
ナポレオンのことなど話し冬列車
出てこない書類一枚秋の暮
それぞれの厚着のしかたパリの駅


響焔2001年3月号(No.393)

白焔集

北陸の鰤

赤ちゃんを抱かせてもらい冬星座
納豆と北陸の鰤猫がいて (伊関葉子抄出)
時差ぼけの五体わが家の冬至風呂 (和知喜八、手塚酔月抄出)
赤ワイン一本開けてクリスマス
じぶ煮食う横浜ルミネ友元気

白灯集

列車降り瞑想あとの冬北斗
町内にイルミネーション十二月
電子本の立ち読み冬の日曜日
去る人と来る人がおり十二月
スパゲティ百グラム茹で冬の雨


響焔2001年4月号(No.394)

白焔集

新世紀

息子とのカレー合作年の暮
ひとつずつ海老天入れて晦日蕎麦
元日のみほとけ光り新世紀
新年の挨拶ボナネボンサンテ
盛り上がる映画のはなし薪暖炉

白灯集

フランスに戻り静かな二日の夜
中華料理とアルザスワイン冬の川
電子本の立ち読み冬の日曜日
おさなごにえほん音読春を待つ
一月のヴァンセンヌの森競走馬


響焔2001年5月号(No.395)

白焔集

春の雪

フランスにせんべいブーム春きざす
セーヌ春もうすぐ妻の誕生日
風光る猟犬小屋に犬溢れ
囀りの中の出勤大事な日
春の雪ライトアップの大聖堂 (長沼直子抄出)

白灯集

潤滑油車に積んで一月尽
節分の豆をもらってパリの寺
酢キャベツと日本のカレー春月夜
春の宵カマルグ米を炊いて食う


響焔2001年6月号(No.396)

白焔集

黄水仙

桃の節句チーズフォンデュでワイン飲む
春の川町一番のレストラン
久々の自由な土曜梅の花
黄水仙パリ中華街人多く
合気道の稽古終わって春の星

白灯集

鴨の脚ポトフに入れて浅き春
春の花新型のレジスーパーに
ロワールに雨降り続く彼岸かな
散髪はセボンとメルシ春の花
連翹と増水の川パリへ行く


響焔2001年7月号(No.397)

白焔集

遊蝶花

日本から客花冷えの街走る (新川敏夫抄出)
インディアンサマー会計年度始まりて
フランス語のテープを聴いて復活祭
アントレに湯豆腐恋の話など
安らかに眠るダヴィンチ遊蝶花

白灯集

鯉のたたきサンセール赤ワイン
おぼろ夜のシノンワインの太ボトル
春服に替え食卓にブリオッシュ
春の林奥にフランス料理店


響焔2001年8月号(No.398)

新同人特集−夏の詩−

さつき満開         
              米田 透

さつき満開子と医者のダイアローグ
日本より暑いフランス旅券出す
日焼けした顔とその訳月曜日
スパゲティ冷やしうどんとして食べる
郷に入っては郷に従い花粉症
夏の雲身辺整理ぼちぼちと
芍薬や学び始める中国語
フランスの穀倉地帯虹立ちて


白焔集

不動心

不動心問われるごとく春あられ
こちらからひと声かけてみどりの日 (和知喜八、新川敏夫抄出)
フランス人ノンと言えども夏に入る
金雀枝の道を選んで退勤す
風呂で聞く雨音日本梅雨めきぬ

白灯集

ゆっくりと家で休んで労働祭
巨大茄子ひとつ使って晩御飯
夏めきて三十周年婚記念
手際良い電気屋帰りつばくらめ
昇天祭映画二本の空の旅


響焔2001年9月号(No.399)

白焔集

セーヌ川

高層の客室夏のセーヌ川
一週を終えて聖霊降臨祭
ヴィーアイピー見送ってすぐ強い雹
退勤す赤信号と大西日
洋館のテラス豆飯かみしめて

白灯集

よく冷えた母国のビール石畳
気の抜けぬ金曜の夜梅雨の入り
どう使う自分のいのち夏至近し
退勤路緑陰を出て緑陰へ
パリで聴く上方落語夏至の夜


響焔2001年10月号(No.400)

白焔集

散らし鮨

中庭にディナーテーブル虞美人草
ミシュランの星付きの店夏の川
中庭にラヴェンダー咲き散らし鮨
はかどらぬ帰任の準備雷雨来て
夏休み子のEメールハワイから

白灯集

ソローニュの夏の夕暮鴉飛び
盂蘭盆会ズッキーニの馬茄子の牛
味噌で食うフランス胡瓜週末へ
短パンに素足の男女パリの駅
素麺の差し入れフランス八年目


響焔2001年11月号(No.401)

第28回響焔賞受賞作品 佳作

帰任 (フランス)米田 透

向日葵の畑在仏八年目
手作りのジャムつかの間の夏休み
日焼けして上には上のいるを知る
晩夏光心のスイッチ帰任へと
雲の峰譲る車を丸洗い
秋立つや残したいもの捨てるもの
記念品のソムリエナイフ夜の秋
ユーロ建新小切手帳秋の空
初秋のパリゆっくりと時流れ
もの捨てて定まるこころ鰯雲
買いすぎぬように買い物葡萄買う
整理する会社の書類終戦日
帰任後の予定が入り鱗雲
譲る物おおかた決まり秋日影
王侯の愛した大地秋の虹

白焔集

緑陰

バカンスの前の残業夏旺ん
夕涼みスペイン人の話聞く
緑陰のバレー盲人サーブせり
時差使い仕事進めて夏の月
みずうみに浮かぶ燈籠終戦日

白灯集

八月の一週終わりライスカレー
雲の峰ワイパー部品交換す
日本人に日本の薬夏の風邪
自由な日葡萄をつまみ碁の話
死蔵物の譲り先決め秋の風


響焔2001年12月号(No.402)

白焔集

帰国

花束とキス受け帰国八月尽
印鑑の社会に戻り鱗雲
物言わず尾頭付きの秋刀魚食う
台風の接近眼鏡注文す (相田勝子抄出)
五十五歳の浦島太郎天高し

白灯集

ノルマンディーチーズいろいろ虫の声
ウォッカと喜多方ラーメン秋の宵
デザートの加賀梨猫の唸り声
帰任後の人間ドック秋暑し
秋晴れのクリームシチュー妻の留守



Haiku Indexへ戻る


ご意見をお聞かせ下さい