米田透俳句集(1995-1999年まで)


響焔1995年11月号(No.329)

白灯集

急に秋家族帰って広き部屋
秋の雨独り住まいの窓濡るる
秋雨にセーヌの流れ音を立て
パリからの車窓一面ラベンダー
シャトー観て向日葵畑駈け戻る


響焔1995年12月号(No.330)

白灯集

秋天や大河をのぼる白き鳥
真っ青な秋空を背にシャトー立つ
掃除夫が落ち葉を掃きてパリの朝
パリの秋カフェのボーイきびきびと
オルレアン枯れ葉の色の並木路


響焔1996年1月号(No.331)

白灯集

パリの駅銃持つ兵士厚着なり
パリの秋日本語の本少し買う
オルレアン秋の祭日鼓笛隊
一月も前から準備クリスマス
加賀の鰤パンでは食えぬ飯を炊く


響焔1996年2月号(No.332)

白灯集

冬の野に影絵広がる日の出前
木枯やフランス国旗日章旗
初雪や泣き面に蜂パリのスト
電子メール一斉送信牡丹雪
エスカルゴ社員食堂クリスマス


響焔1996年3月号(No.333)

白灯集

プレゼント交換もあり聖夜かな
見ておけと裸で迫る冬の富士
寝正月異国疲れを癒しつつ
フランスに戻る前夜に障子貼る
新年にミテラン逝去旗半旗


響焔1996年4月号(No.334)

白灯集

雪解けずクロワッサンは売り切れる
減量の成果がすこし春隣
春光やジャンヌダルクは馬の上
薔薇色の春の夕焼オルレアン
春のパリ傘がおちょこになりにけり


響焔1996年5月号(No.335)

白灯集

充実の一週終えて雪も消え
春愁や心にしみるピアニシモ
若者に日本語教う木の芽時
野兎が数匹遊ぶ春の暮
ブローニュの森孔雀鳴きのどかなり


響焔1996年6月号(No.336)

白灯集

魚の絵プレゼントされ万愚節
焦げ付かぬフライパン買い四月くる
パリ発の列車から下り菫草
虚子の忌や我は人間探求派
水仙がこちらを向いてボンジュール


響焔1996年7月号(No.337)

白灯集

カフェで聞く知人の帰国春暮るる
五月祭キスしサインしシラク行く
栃の花凱旋門が見え隠れ
夕立やパリの書店でねばりおり
四人乗り青葉若葉のパリを行く


響焔1996年8月号(No.338)

白灯集(巻頭)

野茨や息子の目指す画家の道
ドイツ製あんパンを割り青嵐
樫若葉働けばまた仕事増え
買いたてのバゲット熱し木下闇
鳥の群低く飛ぶなり麦の秋


響焔1996年9月号(No.339)

白灯集

クロワッサン焼き上がるまで昼寝せり
楸邨忌糞ころがしの句など読む
パリ祭の警官ランチ買って行く
盂蘭盆会終って渡るセーヌ川
自転車隊駆け抜けてゆきパリ真夏


響焔1996年10月号(No.340)

8月号巻頭作家・特別作品

シャトー夏期講座  米田 透

森と池とシャトー舞台の夏期講座
仏道について夏の各地から
汗かいて百八礼拝膝笑う
朝のパンの蜜に蜜蜂ひかり来る
夏の野原朝の牛乳搾り立て
手作りのジャムに人気の夏館
村人と音楽の宴虹が出る
扇風機止め忘るるは紐を引く
日の暈や人それぞれにサングラス
緑陰のバレーボールに婦人つどい


白灯集

また一人帰任者送り夏の月
索麺が配られ出向三年目
カフェテリア李の皿に手を伸ばす 
秋の声数学を解き娘にFAX
子がうまれ胸を張る部下豊の秋


響焔1996年11月号(No.341)

白灯集

新涼や野外で食べる人減りぬ
スパゲッティ一人で作り桃も食う
八月末単身赴任一人減る
優しさを描いた画家や秋の声
秋の朝戦車輸送とすれ違う


響焔1996年12月号(No.342)

白灯集

秋灯や誕生祝い海越えて
秋深く小さな町の蚤の市
時差生かし仕事進めて暮の秋


響焔1997年1月号(No.343)

白灯集

桃色の飛行機雲や秋の朝
パソコンをかばんにしまい十三夜
菊づくし万聖節のオルレアン
薪暖炉犬は尾を振り猫眠る


響焔1997年2月号(No.344)

白灯集

病癒えパリに出かける霜の朝
初雪の積もるホームに降り立てり
オルレアン冬夕焼の地平線
鴨の鍋家族で囲み猫もいて


響焔1997年3月号(No.345)

白灯集

冬ぬくし母国の庭園鳥の声
正月や家族四人に猫二匹
元朝や間近に拝む涅槃仏
欧州の寒波の中に戻りけり
フランスに戻ってからの寝正月


響焔1997年4月号(No.346)

'96年度白灯集巻頭作家10句競詠

オルレアン四年目の春  米田 透

寒明ける仏意のままに生かされて
オルレアン四年目の春成果出る
これまでの書類を整理春の月
北半球春となり妻誕生日
妻に出すカードを選びクロッカス
子の卒業画家以外への道はなく
囀りやホテル住まいに慣れてきて
春野菜肉と合わせて何作ろう
花粉症フランスに来て出なくなる
菫咲く次は何咲くオルレアン


白灯集

水垢離や経のつかえる日もありて
春待つや良い数字出す体重計
経頭を無事に勤めてパリ二月
あたたかや人出とともに馬も出て
春寒のシャンペンで締め展示会


響焔1997年5月号(No.347)

白灯集

シャンゼリゼのんびり歩き若葉風
妻と子とステーキ食べて春の月
菜の花を見ながら戻るオルレアン
春の河歩く速さで流れ行き


響焔1997年6月号(No.348)

白灯集

繰り返すパソコンゲーム花粉症
三月や病父の許へ妻帰り
蜆汁仏人達が食うと言い
春風や北京から来た赴任報
チューリップ子は異国でも育ちゆき

句会報

木の芽時散歩の犬は白と黒


響焔1997年8月号(No.350)

白灯集

風光る祈り同封おとうとへ
タイ料理ぴりっと辛口夏に入る
夏寒し難民のごとくホテル替え
ひとまたぎドーバー海峡夏の雲


響焔1997年9月号(No.351)

白灯集

薔薇の園運動靴が通り過ぐ
妻にファックス電話もかけて薔薇の花
冷蔵庫生のチーズが上段に
夏の昼中華豆腐の固きかな
日曜日タオルも洗い夏の雲


響焔1997年10月号(No.352)

白灯集

ウィンザー城仕事の後の黒ビール
梅雨明ける自転車野郎バカンスへ
朝顔がパソコン画面に現れる
三四人サマードレスが退勤す


響焔1997年11月号(No.353)

白灯集

一日で飯饐えにけりオルレアン
冷や素麺少し伸びしを妻と食う
古雑誌大量に出し終戦日
ボンジョルノ元気な店で氷菓食い


響焔1997年12月号(No.354)

白灯集

洗剤に良い香りあり夜半の秋
植木屋と新凱旋門秋うらら
テレビでの黒澤映画夜長かな
いろいろな葡萄出回る少し買う


響焔1998年1月号(No.355)

白灯集

秋暑く子の誕生日わすれおり
妻の便り家族の写真秋晴るる
十月一日朝礼の後クロワッサン
烏賊を炊き茶蕎麦を茹でて夜長かな
中世の橋歩いて渡り秋の風


響焔1998年2月号(No.356)

白灯集

石畳真紅のコート老婦人
あつあつの新米納豆解凍す
飛行機でボジョレヌーボー日本へ
頼られること増えてきて冬ぬくし
こがらしや繰り返し読む涅槃経


響焔1998年3月号(No.357)

白灯集

パリ・ラ・デファンス手より大きい落葉かな
ブルターニュなまりの給仕と暖房と
雪催い郵便箱に師の句集
十二月ぐるぐるまわる夢を見る
オリオンの位置もわかってオルレアン


響焔1998年4月号(No.358)

白灯集

一月の出勤日の出早くなり
レストラン冬日の入る席を取り
大雪と電子メールに子が書いて
寒の雨備蓄食料消費して


響焔1998年5月号(No.359)

白灯集

節分の豆五十一パリの寺
愛想の良いピザの店春めきぬ
バレンタインデーもうすぐ妻の誕生日
妻に出す電子のカード木の芽時


響焔1998年6月号(No.360)

白灯集(巻頭)

街路樹の花咲き始めオルレアン
休日にカレーを作り春日和
ビストロの外の春雨シャンゼリゼ
春宵やフランス料理魚づくし
連翹の他は真冬に戻りけり


響焔1998年7月号(No.361)

白灯集

盲人のピアノ伴奏あたたかし
春歌うドナルドダックの口をして
パリに発つ前の朝食春二番
マルシェのパンかじって帰りチューリップ
成田着病院直行躑躅咲き


響焔1998年8月号(No.362)

白灯集巻頭作家特別作品

初夏の青空   米田 透

十日間妻と過ごして紅つつじ
現住所フランスと書き春の雲
菜の花畑無言の列車突き進み
黄金週間妻の退院確かめて
フランス語遅々たる歩み夏始
デザートにウオッカ入り氷菓選びけり
甚平を着てパソコンのキー叩く
昼食のテーブルを這う細き虫
英国の初夏の青空護摩焚かれ
夏の寺正座瞑想二時間半


白灯集

キロ単価見て買うチーズ夏の宵
妻の声聞いて出勤夏のシャツ
生ビール飲んで連休最初の日
妻の声少し元気に昇天祭


響焔1998年9月号(No.363)

白灯集

日本製アニメなど観て夏の宵
梅雨便り妻運転を再開す
魚焼く網なども買いパリの夏
中国酒を仏人も飲み夏の宵


響焔1998年10月号(No.364)

白灯集

古本屋並んで夏のセーヌ河
焼き魚焦げ目がつかず寒い夏
木苺のソースで食べる鴨の足
ベゴニアが庭埋め尽くし四連休


響焔1998年11月号(No.365)

白灯集

万緑が途切れたところシャトー立つ
バーベキュー百人分焼き夏の夕
宴終わり畑の道に夏の星
玉葱の味噌汁作り日常へ
夕立の後鳩の首よく動き


響焔1998年12月号(No.366)

白灯集

とろろ汁日本語字幕の米映画
モスラ対ゴジラの映画夜長かな
一日を無事に過ごして黒葡萄
秋麗コーヒー出され髪刈られ


響焔1999年1月号(No.367)

白灯集

百年も前の自動車秋のパリ
十月のビジネス堅く滑り出す
秋の雨傘を一本買い足して
片方の街路樹黄葉オルレアン


響焔1999年2月号(No.368)

白灯集

パリ晩秋日の丸掲げ(る)大使館
懸案が片付いてゆ(<-い)き冬木立
ボンジュール握手をすれば冷たい手
地下道でハープ弾きおり冬ある日
冬麗エレベータから犬が出て


響焔1999年3月号(No.369)

白灯集

フランスの幼児の笑顔アノラック
冬晴れやわが町内の蚤の市
十二月魔女の鼻持つレジ係
理髪店犬二匹じゃれボンノエル


響焔1999年4月号(No.370)

白灯集

フランスのことなど語り忘年会
単身の赴任いつまで霜の鶴
フランス人椅子の向き変え雪景色
妻からのファックスの音冬の朝


響焔1999年5月号(No.371)

白灯集

フランス人に立春告げて文化論
バレンタインデー国際電話長くなり
ボンソワと女の車掌春隣
ドビュッシー子と猫ねむい冬の午後
生き方を一つつかんで木の芽晴れ


響焔1999年6月号(No.372)

白灯集

北半球春来て妻の誕生日
モンパルナスの回転木馬春日向
だんだんと目覚め早まり春の鳥
牡蠣食いにメトロを下りてバスチーユ
タリヤテーレ・ボローニャ風春寒し


響焔1999年7月号(No.373)

白灯集

濃い色の連翹在仏五年過ぎ
人命救助試験に通り百千鳥
パリで聞くドイツの話風光る
忘れ物して晩春の並木道


響焔1999年8月号(No.374)

平成10年度白灯集巻頭作家特集

   妻が来て   米田 透

マロニエの花のバカンス妻が来て
昇る陽がプールに揺らぎクロワッサン
石畳妻と歩いて降臨祭
影涼しみんなで試すエスカルゴ
パリ夏の婦人警官りりしくて
涼しさや「モネの睡蓮」楕円の間
鴨泳ぐ川辺のディナー夏の月
ショパン弾く妻フランスの夏の宵


響焔1999年8月号(No.374)

白灯集

味噌汁にす入りの豆腐五月来る
子の個展原色多く夏初め
キムチ買うパリ中華街夏きざす
フランス語読んで眠って夏初め


響焔1999年9月号(No.375)

白灯集

ブランド付き信玄袋夏のパリ
初夏のパリ自分の国の大使館
オルレアン花公園に虹が出て
甚平に着替え肉じゃが作りけり


響焔1999年10月号(No.376)

白灯集

ハイテクのメトロを下りて夏の雨
夏のパリ柔らかいもの踏みにけり
食堂にワンピース増え半夏生
夏の朝パン・オ・レザンと英国ティー


響焔1999年11月号(No.377)

白灯集

緑陰の昼食横にカナダ人
突然に常磐木落葉オルレアン
ベートーベン寝床で聴いて暑い夜
食料を少しだけ買い原爆忌


響焔1999年12月号(No.368)

響焔賞審査結果から

   皆既日食  米田 透

にこやかなアコーディオンひき夏のパリ
大鍋のミルク沸騰夏の朝
オーストリアの剣道二段西瓜割る

白灯集

フランス語をしゃべる給油機秋の空
ブイヤベース昼食に出て秋涼し
インディアンサマー闘牛の話聞き
ジャスミンティー九月のパリの昼下り



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