米田規子の俳句 特別作品集 1995-2000年


火炎集

響焔2000年4月号掲載

咲きのぼる青い朝顔歩け歩け
(高井太郎抄出)

響焔2000年6月号掲載

柚子味噌の作り方聞き柚子五つ
(高井太郎抄出)

響焔2000年7月号掲載

フルーツパフェの長いスプーン女正月
(和田璋子抄出)
お寺から蕎麦屋に向かい黒手套
(秋山石声子抄出)

響焔2000年12月号掲載

こわれやすき心とおもい青林檎
(秋山石声子抄出)


白灯対談に取り上げられた句

響焔1995年8月号掲載

子の悩み聞いてそら豆むき始む
自己主張うまく出来ずに栗の花

響焔1995年9月号掲載

ケーキ焼く匂いなどして梅雨一と日

響焔1995年10月号掲載

パリ目指す機翼夏日の輝けり
蜜蜂の親しげに来るカフェーかな
川面より涼風シャトーそびえ立つ
夕焼けやフランス大地果てしなく

響焔1996年4月号掲載

よく歩き真冬の赤いトマト買う

響焔1996年6月号掲載

若楓子に頼らるはいつまでか

響焔1996年7月号掲載

離れ住むわれら銀婚若葉萌ゆ
長男とブランデー飲み春惜しむ

響焔1996年8月号掲載

雨粒は泪まっかな薔薇を剪る
あのころの母に会いたき新馬鈴薯
六月の太陽みんなを働かせ
日焼けして少年無口ピアノ弾く

響焔1996年9月号掲載

しなだれる七夕飾りに願い百
製作に励む子梅雨の赤い月
フルートの音色澄みゆく梅雨の月
グラジオラス年に一度の面談日

響焔1996年10月号掲載

兄いもうと話が合いて西瓜食う
大工左官帰り間近の蝉の声
三日月やエプロンのままピアノ弾く
良い知らせトンボ右から左から

響焔1996年11月号掲載

子に贈る百合の花束バレエの夜

響焔1996年12月号掲載

膝掛けがやわらか一人の良き時間

響焔1997年1月号掲載

好物の焼芋一本母見舞う
大根のみずみずしきを父と掘る
おでん鍋口数少ない父と居る

響焔1997年3月号掲載

皆を呼ぶ年越そばに大き海老

響焔1997年4月号掲載

クロッカス夫に頼れぬことが増え
母に送る誕生カード春そこに
春一番ピアノを走る指なめらか
ゆとり欲しき心にまるく冬の月

響焔1997年5月号掲載

花蘇枋母をひとりにしてしまう
父の死を越えんとしおり若楓

響焔1997年8月号掲載

翔べるほど自由でなくて藤の花

響焔1997年9月号掲載

青年に焼茄子少しもの足りず
白あじさい母の顔して帰宅する
梅雨夕焼ぽっかり何もない時間

響焔1997年10月号掲載

青芒かがやく風に明日想う
子の皿へ真っ赤なトマト元気出せ
手術までは風切るつもり大夏野

響焔1997年11月号掲載

ほのぼのと良きことがあり千日紅
母のためやわらかく煮る夏大根

響焔1997年12月号掲載

二日目のシチューまろやか昼の虫

響焔1998年2月号掲載

たたき干す青いジーパン鵙日和
銀杏黄葉ぐるっと回りバス発ちぬ

響焔1998年3月号掲載

絵のような裸木ならび休館日

響焔1998年4月号掲載

メガネ光り少年走る冬渚

響焔1998年6月号掲載

ほたるいか加賀のフランス料理店

響焔1998年9月号掲載

茄子・トマト暗算速き農婦かな

響焔1998年10月号掲載

夏柳夕暮れどきに落ち合いて

響焔1998年11月号掲載

四人家族の四人が揃い夕焼ける

響焔1999年1月号掲載

大鍋に肉じゃが作り体育の日

響焔1999年2月号掲載

今朝の冬動く歩道の横あるく

響焔1999年3月号掲載

パンジーのあかしろきいろ明日も咲く
裸木にみなぎっているこころざし

響焔1999年4月号掲載

日常の暮らしに戻りシクラメン

響焔1999年5月号掲載

五十代近づき紅梅ふっくらと

響焔1999年6月号掲載

花の冷え全身で弾くピアノソナタ

響焔1999年7月号掲載

絵画的フランス料理はなぐもり

響焔1999年8月号掲載

赤いバラ白いバラ咲き子の個展

響焔1999年9月号掲載

長男とぼつぼつ話し葛桜

響焔1999年10月号掲載

夕立のあと透きとおりドビュッシー

響焔1999年11月号掲載

深呼吸ひとつ炎天へ歩き出す

響焔1999年12月号掲載

歯応えのあるものを食べ防災の日

響焔2000年1月号掲載

秋没日富士に真向かい明日のこと

響焔2000年2月号掲載

幾重にも山が重なりカニ雑炊

響焔2000年4月号掲載

日当たりの良い部屋猫とシクラメン

響焔2000年8月号掲載

夏木立いちばん奥の精神科


響焔1995年12月号掲載

白灯集巻頭作家・特別作品

秋そうび   米田 規子

変貌する街秋の日の和菓子店
行く街の日なた日陰に木の実落つ
上向きの気持ち蕾の秋そうび
家いえに小菊があふれ買物に
一年のあれこれが見え稲稔る
秋桜午後の静かなショベルカー
午後からはピアノ教室たわわ柿
帰宅する時間それぞれ茸飯
ひとつ終えまたひとつ終え暮の秋
ピアノ閉じ夕餉の支度秋刀魚焼く


響焔1996年4月号掲載

'95年度白灯集巻頭作家10句競詠

キッチン 米田 規子(十月号巻頭)

キッチンはわたしの書斎春の雨
郵便夫素通りしてゆき沈丁花
申告を済ませ川面に春陽射し
バラ芽吹き旅のプランの本決まり
春キャベツ刻んで刻んでパリ想う
春日射し仕事の前に米を研ぐ
筆洗う子の丸い背や春愁う
春の闇猫の目何かを察知して
巡り来る日曜つんつん桜草
駆け足で少女大人へフリージア


響焔1997年12月号掲載

白灯集巻頭作家・特別作品

大きな林檎   米田 規子

ジーンズが好き金木犀の散歩道
秋うらら水飲む牛と瞳が合いぬ
柿いろづき街の小さな郵便局
ジグザグの細き道抜け秋ざくら
その先を決めかねており秋の蝶
受診終えあかく大きな林檎買う
レモン絞る湯上がりの顔大人びて
子が育ち今日でこぼこのかりんの実
鳥の目となり豆柿の朱いところ
行く秋の鉄塔伸びる段畑


響焔1998年5月号掲載

1997年度白灯集巻頭作家特集

  卒業 米田規子

柳の芽卒業まぢかき子と歩く
ポピーゆらゆら卒業前の忙しき
三年の想いがあふれ卒業式
顔寄せて卒業の子と写さるる
式終わり雲ひとつなき春の空
もういちど見る卒業証書重きかな
制服の子の白き顔風光る
スイートピーまだまだ先のこと想い


響焔1998年12月号掲載

響焔賞 佳作 

コンサート 米田規子

早起きの青い林檎とヨーグルト
セピア色のバッハ全集秋日澄む
ベランダにマーチが届き秋桜
和風好きイタリアン好き秋なすび
青蜜柑小さな旅を約束し
雁来紅踊り疲れしトウシューズ
あっさりと指定券とれ赤蜻蛉
トンネルをいくつも抜けて曼珠沙華
ふるさとに母とおとうと衣被
月明の屋根をひょいひょい猫の道
母と歩くゆっくり歩き蕎麦の花
秋冷や本屋のしずかなクラシック
百日紅レッスン前に米を磨ぐ
虫の音に満たされておりピアノ閉ず
横浜に住み慣れ秋のコンサート


響焔1999年3月号掲載

白灯集巻頭作家・特別作品

赤いセーター   米田 規子

靴音は駅に集まりポインセチア
このまちに友増え紅い冬木の芽
メキシコ産冬至かぼちゃを甘く煮る
クリスマスカードを母へアヴェマリア
待つことに慣れ病院のシクラメン
三毛猫がいつも居る場所冬たんぽぽ
聖菓分けマザーテレサのやさしい瞳
冬木に芽今できること考える
こころざし同じ友持ち花アロエ
母からの赤いセーター年つまる


響焔1999年9月号掲載

白灯集巻頭作家・特別作品

フランス・オルレアン   米田 規子

オルレアンへまっすぐに道柳絮飛ぶ
麦畑地平線から雲が湧き
夏の日のたそがれチーズと赤ワイン
香水の匂いに蒸れてパリメトロ
「モネの睡蓮」緑陰の列に蹤き
花マロニエ美術館出て水を買う
ふくよかな白い彫像夏の空
娘への香水を買い旅半ば
麦の秋おもちゃのような石の家
オルレアンの教会の鐘森林浴


響焔1999年12月号掲載

第26回響焔賞受賞作品

ひまわり
          米田規子

雲の峰地下鉄新駅わが町に
スパイスの効いたピクルス熱帯夜
みずいろの水着が似合う十九歳
一房のぶどう仏蘭西に恋をする
蝉時雨森のホテルへ人と犬
ベネチアングラスの館黒揚羽
万緑を沈め海賊船赤し
夏うぐいす甘味処の藍のれん
サングラスかけ閻魔堂に踏み込みぬ
ひまわり大輪アメリカへ子が発ちて
苦瓜と豚肉炒め更年期
練習曲「革命」を弾き緋のカンナ
子をおもい国際電話待つ残暑
秋の日のピアノの上にダリ画集
五十歳からの出発黒葡萄

響焔2000年4月号掲載

平成11年度白灯賞受賞作品

明日も咲く

大鍋に肉じゃが作り体育の日
今朝の冬動く歩道の横あるく
パンジーのあかしろきいろ明日も咲く
裸木にみなぎっているこころざし
甘納豆子と猫ねむい冬の午後
絵画的フランス料理はなぐもり
長男とぼつぼつ話し葛桜
夕立のあと透きとおりドビュッシー
蔘の花お寺の前を横須賀線
歯応えのあるものを食べ防災の日

響焔2000年6月号掲載

平成11年度白灯賞受賞作家特別作品

花の昼

桜山アスレチックに列ができ
ベビーカーに囲まれている桜かな
桜見に来て白うさぎ黒うさぎ
なだらかな丘のてっぺん花筵
フランスの旅が近づき花菜の黄
買物の自転車を止め花の昼
コーヒーとケーキを頼み花明り
五十代ざわざわ始まり若楓

響焔2000年11月号掲載

第27回響焔賞佳作一席作品

未来

蝉時雨信号渡りBUNKAMURA
バッグから扇子開演五分前
踊り子の真っ赤なドレス熱帯夜
東京晩夏ごうごうと人の波
ピアノ弾くことが安らぎ日日草
木下闇こちら見ているやさしい瞳
青柿に雨の日風の日子の未来
宵っぱり家族氷菓を分け合いて
ベートーベン「田園」を聴き雲海に
大ひまわりホテルの朝のバスタオル
桑の実を噛み海育ち山育ち
とんぼ来ておりフランスへEメール
置かれしままの白いキャンバス虫時雨
青年のこころの奥の鶏頭花
新涼や鍵盤走るわが十指



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