米田規子 俳句集(2017年)
 

響焔2017年1月号掲載

新光焰集作家特別作品

月明り   米田 規子

青空へ伸びるコスモス下校の子
団塊の世代老いたりすいっちょん
林檎齧り「ジムノペディ」と朝の雨
猫一ぴき二ひき十ぴき月明り
銀色の穂芒の波人の波
秋深むタータンチェックの赤と黒
一人ひとり夜風と帰る金木犀
ちちははに伝えたきこと星流る
三日月と猫に覗かれ赤い爪
断捨離というほどでなく木の実雨

光焔集

柿の赤   米田 規子

秋刀魚焼くこんがりと焼く母なれば
秋の蚊をぱちんと昼の気怠さに
間引菜をざぶざぶ洗い日暮まだ
口を出てまずしき英語霧の街
地魚の握り八貫さわやかに
ちらほらと十月桜皆帰る
(田中賢治抄出)
子ら育つ地球の未来柿の秋


響焔2017年2月号掲載
 

光焔集

はつふゆ   米田 規子

いつまでも風と遊んで神無月
群衆の黒のしんがり今朝の冬
山眠る赤子の足裏ぷっくりと
(廣谷幸子抄出)
立冬のからんころんと有楽町
心配の種またひとつ唐辛子
はつふゆの天地のあわいローカル線
木の実ころころ朝練の鼓笛隊


響焔2017年3月号掲載

光焔集

シクラメン   米田 規子

出港の汽笛を太く時雨雲
黄落の真っ只中の缶コーヒー
旅人のように一日返り花
(田中賢治抄出)
絵心と詩ごころラフランス匂う
熟年やさざなみ光る冬の池
耿耿と灯してひとりシクラメン
善哉と汁粉の違い冬ぬくし
(廣谷幸子抄出)


響焔2017年4月号掲載

光焔集

冬日向   米田 規子

車から犬が三匹冬たんぽぽ
鉛筆の芯を尖らせ寒気団
一センチ身長縮み海鼠食む
はちみつの甘さのような冬日向
寒月光グランドピアノから吐息
黒猫の眼まんまる花八ツ手
モーニングコーヒー香り春隣


響焔2017年5月号掲載

光焔集

芽吹き山   米田 規子

寒晴や「八幡宮」の金の文字
光零しつつ寒鯉の太き腹
百日の冬のどん底赤い靴
枯野一周こころ無になる途中
遠き日の雪の匂いの一夜かな
(山口彩子抄出)
風のように走る少年芽吹き山
笑い顔少し歪んで春の闇


響焔2017年6月号掲載

光焔集

桜の芽   米田 規子

階の月日の丸みあたたかし
(栗原節子抄出)
如来像の一木造り冴返る
口中のクッキーほろり山笑う
昨日今日沈思黙考春二番
空っぽの青空桜の芽に力
十誉めて意見を一つヒアシンス
エプロンを外してからの春の月


響焔2017年7月号掲載

光焔集

花吹雪   米田 規子

傘さして初めての町桜冷え
草餅や笑って上げる免疫力
ジェット機の轟音消えて芹の水
花吹雪トラック三台仮眠中
大皿に青椒肉絲もう四月
言葉みつからず蘇芳の花盛り
金沢のしっとり濡れて紫木蓮
(栗原節子抄出)


響焔2017年8月号掲載

光焔集

若葉風   米田 規子

来し方や風と光と桜蕊
目薬を一滴二滴みどりさす
カプチーノ黄金週間あと二日
生き生きと細胞目覚め青嵐
薔薇園にバラのコーヒー雨上がる
人の群この世の薔薇にある疲れ
若葉風板一まいの猫の墓


響焔2017年9月号掲載

光焔集

更衣    米田 規子

少しずつ毀れしゃっきり更衣
六月や古き画廊に現代画
ラジオ体操紫陽花の今日の色
白南風やたっぷり煮込むラタトゥーユ
一日をきれいさっぱり夏の月
青蔦伸びてパン種の二次発酵
(栗原節子抄出)
少女の眼何を畏るる百日紅


響焔2017年10月号掲載

光焔集

茄子の花    米田 規子

朝粥に梅干し一つ半夏生
(栗原節子抄出)
ぬっと猫百日草は地味な花
みどりごの帽子にフリル巴里祭
少しずつ違う朝来て茄子の花
(石倉夏生、渡辺澄抄出)
野球部のキャッチボールの音晩夏
すべり台ぼつんと残り大夕焼
目の乾きこころの渇き夏の果


響焔2017年11月号掲載

光焔集

はつあき    米田 規子

踏んばって泣いているなり日輪草
(山崎總抄出)
枝豆の塩加減良し茜雲
疾走の月日ありけり草いきれ
(石倉夏生抄出)
東京晩夏くっきりと紅をさす
ひと言に胸の騒めき緋のカンナ
はつあきや伸ばして曲げて少し跳び
(渡辺澄抄出)
いつからか家事の分担螇蚸とぶ


響焔2017年12月号掲載

光焔集

風過ぐ    米田 規子

スカートの裾を風過ぐ九月かな
詩は見えず秋風と遊ぶカーテン
マンドリンのトレモロ淋し星月夜
何か叫ぶキバナコスモスの群生
(石倉夏生抄出)
長生きの秘訣など無く天の川
(渡辺澄抄出)
竜田姫モーツァルトに微睡みぬ
食卓にノートを開き虫時雨


特別作品

からころ    米田 規子

白南風や貝のかたちのマドレーヌ
忽と人消ゆ炎天の橋の上
ふるさとの梨が一番家灯る
つんつんと人を拒みて曼殊沙華
帰り道大きく逸れて虫の闇
たのしみのそれぞれ違う夜長かな
白菊黄菊ありありと愛残る
いっときの自由からころ木の実晴


米田規子 俳句ホームページインデックスに戻る。

ご意見をお願いします。