米田規子 俳句集(2016年)
響焔2016年1月号掲載
朱焔集
赤とんぼ 米田 規子
十月や樹間すり抜け透明に
紫紺もて今日の主役の秋茄子
老人の遊びコスモス風を呼び
エコバッグ小さくたたみ鵙の晴
(山口彩子抄出)
人生の途中の逢瀬赤とんぼ
(川嶋隆史抄出)
白和えをレシピ通りに文化の日
実南天本音と弱音聞いており
響焔2016年2月号掲載
朱焔集
林檎 米田 規子
黄落期睡りの中に川流れ
(川嶋隆史抄出)
ひと束の十年過ぎぬ冬帽子
(山崎聰抄出)
少年たちの今が弾けてピラカンサ
ひとりの時間刃を入れて林檎の香
花椰菜もくもくぎゅっと不自由も
三歳児といっしょに揺れて冬の雲
風景の枯葉に埋まり神の声
響焔2016年3月号掲載
朱焔集
冬日燦 米田 規子
爆弾のようなお握り山眠る
(川嶋隆史抄出)
冬日燦石の広場に水の音
生国や雪の白さのかぶらずし
折り紙のサンタに目鼻冬ざるる
食卓に愛を加えてクリスマス
ポインセチアの緋いちにちを使い切り
ははの味まぼろしの味年用意
(栗原節子抄出)
響焔2016年4月号掲載
朱焔集
暖炉の火 米田 規子
足の指グーパーグーパー寒に入る
午後の陽の淡き富士山二日かな
空深く一輪二輪寒紅梅
テキーラの瓶の群青冬旱
しんしんと大陸枯れる犬走る
(山崎聰、廣谷幸子抄出)
誕生や暖炉の火を囲むように
寒波来るカリカリベーコン目玉焼き
響焔2016年5月号掲載
朱焔集
赤い鳥 米田 規子
伸びやかに窓辺のハーブ冬館
枯木立オレンジ色に染まる朝
風二月メープルシロップ琥珀色
よき声の赤い鳥来て浅き春
アメリカンジョーク雪夜の厚きピザ
クロスして歯ぶらし二本春の雪
全身を鏡が捉え春寒し
響焔2016年6月号掲載
朱焔集
異国の香り 米田 規子
山笑う水滴走るバスの窓
一つに束ね長き黒髪風光る
日射しを恋う日山椒の芽三つほど
うぐいすや築百年のレストラン
拭けば戻るピアノの埃春夕焼
遥かなる時空に扉復活祭
ハーブティーに異国の香り花疲れ
(内田秀子抄出)
響焔2016年6月号掲載
平成28年度火炎賞受賞作家特別作品
白ワイン 米田 規子
さむざむと三月の雨バナナ買う
青空の混み合っている楓の芽
無農薬レタス賜り暮色かな
春の風邪電子レンジがピーと鳴き
軽い方を選んでおりぬ涅槃西風
青き踏む大きな空と澄んだ声
なかんずく玉露の甘みお中日
遠景の菜の花明り少し老い
霾やタテヨコナナメ診てもらう
風に誘われ春昼の白ワイン
たまさかに二人で帰るさくらかな
平凡からすとんと落ちて花の冷え
響焔2016年7月号掲載
朱焔集
春月 米田 規子
桜からさくらへ赤ん坊眠る
グラスにワイン春月に架ける橋
(川嶋隆史抄出)
豆の花ほっこりこころふくらんで
永き日の傾いで曲がる路線バス
見送ってぽつんとひとり八重桜
花水木の街メロディー風に乗り
躑躅燃ゆ斯くして新しい一歩
響焔2016年8月号掲載
朱焔集
五月晴れ 米田 規子
青嵐失いしもの輝きて
じゃがいもの花紛れも無き日常
(山崎聰抄出)
五月晴れ豆腐一丁賽の目に
(和田浩一抄出)
地に低くタンポポ笑う三回忌
薔薇に溺れいちにち青い空の下
白い夏立方体の中に人
(内田秀子、廣谷幸子抄出)
地下室のレトロな画廊日の盛り
響焔2016年9月号掲載
朱焔集
麦の秋 米田 規子
それぞれに行き先ありぬ麦の秋
紫蘇刻み余白少なき予定表
万緑やときどき光るイヤリング
木橋渡ればラベンダーの風の中
矢印のその先の闇椎の花
(和田浩一抄出)
くちなしの明日の色をかなしめり
どんと一皿男の料理夏来る
響焔2016年10月号掲載
朱焔集
夏野原 米田 規子
真白なる水辺のホテル七月来
大夕立いっきに歪むビルの街
(栗原節子抄出)
まひる誰にも会わず鉄砲百合の群
(小林実抄出)
パリー祭茶房に憩う一人ひとり
片陰をいくつ拾えば大東京
(山崎聰、森村文子抄出)
訣れありラベンダーの風青く
狂いなくボレロのリズム夏野原
響焔2016年11月号掲載
朱焔集
海 米田 規子
夏の灯がふるえ横浜の海が好き
ふるさとや風に晒してわが素足
水音に近付き夏の森深し
けんめいに同じ時間を泳ぐなり
(山崎聰、廣谷幸子抄出)
二杯目のコーヒー覚めて晩夏光
鏡のようにあなたと私秋の海
ピアニスト逝き銀漢に煌めく音
響焔2016年12月号掲載
朱焔集
梨 米田 規子
秋茄子をくるくる揚げて明日のこと
小雨なる秋分の日のクラシック
たどりつくまでの憂鬱昼の虫
天高しカスタネットでタンタタタン
ずんと重くざらざらの梨夫と居る
モノトーン一点赤く秋の航
遥か日本海さりさりと梨噛んで