米田規子 俳句集(2015年)
 

響焔2015年1月号掲載

朱焔集

晩秋   米田 規子

秋天やシンバル一打突き抜けて
回覧の「猫の飼い方」柿の秋
舞茸の天ぷらに塩雨催い
大股速歩コスモスの風の波
梃摺って日が傾いて栗の毬
晩秋の隅っこインド料理店
後ろから軽くかるくと冬隣


響焔2015年2月号掲載

朱焔集

冬紅葉   米田 規子

いろいろなことに出会いぬ実南天
声潜め舞台の裏の寒さかな
ピアノ弾く全身全霊散紅葉
そっとしまう切なる願い冬林檎
躓きはつまづきとして冬木立
(川嶋骼j抄出)
孤高ともグランドピアノと冬薔薇
冬紅葉ともに歩みて老い少し


響焔2015年3月号掲載

朱焔集

加速   米田 規子

こころ軽くなるまで遊び冬紅葉
ぽっかりひと日はればれと大枯野
枯木星あの子この子にプレゼント
歳月のどどっと加速実南天
海の懐ゆりかごのような冬日
だあれもいない冬草に日の温み
何の実か弾けて赤く冬怒涛


響焔2015年4月号掲載

朱焔集

ひかり   米田 規子

ふくら雀小学校の昼休み
一月の木のりんりんと送信す
寒禽の声散らばって朝の卓
枯木立天から降ってくるひかり
三寒四温微笑んでいる遺影
健やかに沢庵を噛み今日のこと
ともかくも長寿大国冬林檎


響焔2015年5月号掲載

朱焔集

セロリ   米田 規子

たよりなき午後の太陽返り花
揺れながら術後十年セロリ噛む
ほろ苦く春動き出す熟年期
(小出昌子抄出)
瞑想の息の安らぎ春の海
ワルツ弾き二月ももいろ誕生日
少し自由ブロッコリーの緑濃く
山笑う弾みがついてもう一つ


響焔2015年6月号掲載

朱焔集

赤い色  米田 規子

ものの芽のいちにち雨の音の中
ゆっくりと老酒のどを朧かな
ぴかぴかの青空桜いつひらく
(渡辺澄抄出)
春昼のさみしいときの赤い色
春の星シナモン香るカプチーノ
桜から少し離れて過去未来
(川嶋骼j抄出)
飛花落花金貨一枚チョコレート
(和田浩一抄出)


響焔2015年7月号掲載

朱焔集

春霞  米田 規子

柳の芽シンガポールから生徒
大いなる流れに沿いぬ桜の夜
茹で玉子ころんとふたつ春霞
湧き出ずるもの待っており春落葉
新緑に溺れ自転車のおまわりさん
小学生一団過ぎて夏の雲
脳に送るモーツァルトと若葉風


響焔2015年8月号掲載

朱焔集

薄暑  米田 規子

通勤の赤い自転車走り梅雨
小魚のからっと揚がり夕薄暑
緑陰の風をまといて太極拳
聖五月生きとし生けるものに影
米二合しっかり磨いでクレマチス
おとうと何処に葉桜の深い闇
一本の木をばっさりと雲の峰


響焔2015年9月号掲載

朱焔集

黒揚羽  米田 規子

駆け抜ける犬と少年青しぐれ
凌霄の花やさしさに触れたから
活字より音楽が好きソーダ水
おさなごのピアノすぐ飽き青葡萄
空っぽの生家を訪ね黒揚羽
眠りの中へ光の着信七月来
白南風や上って曲って精神科


響焔2015年10月号掲載

朱焔集

夾竹桃  米田 規子

七曜始まるぷっくりと茄子の紺
夾竹桃些細なことは風が消し
夕焼けの色に消えゆき父の背中
旅終る夏木大きな影を持ち
(栗原節子抄出)
夏休みフライドポテト山盛りに
白桃の重さいのちを受けるように
新涼や指の長さは父に似て


響焔2015年11月号掲載

朱焔集

百日紅  米田 規子

おはようとゴーヤ三本雨上がる
百日紅まひるの闇に息をして
(山崎聰抄出)
ざわざわと風に熱あり葉鶏頭
(栗原節子抄出)
敗戦日漢方薬に咽せており
たそがれて畑の西瓜ごろんごろん
少年の倒立ひらり鰯雲
母として手紙一通天の川
(山口彩子抄出)


響焔2015年12月号掲載

朱焔集

秋の雲  米田 規子

どしゃぶりの百日紅の底力
無雑作に髪を束ねて秋高し
バースデーカードと秋の雲と夢
万物に神の采配ねこじゃらし
鉦叩抗ウイルスの効き目まだ
秋霖や眠りの前のモーツァルト
三日後の芋虫パセリ丸坊主


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