米田規子 俳句集(2013年)
 

響焔2013年1月号掲載

朱焔集

秋の潮   米田 規子

手ざわりの良い備前焼秋深む
大人びて紺の制服天高し
十月やまなこを閉じて風の中
ふんわりと赤を纏いて夜長かな
坊ちゃん南瓜蘊蓄に頷いて
秋の潮体内時計少し狂う
何のため走っているのか晩秋
(渡辺澄抄出)
 


響焔2013年2月号掲載

朱焔集

黄落   米田 規子

銀杏黄葉潮風のカフェテラス
散るように別れ冬めくビルの街
十一月まっすぐ海に突き当る (山崎聰抄出)
黄落やぽつんぽつんと憩う人
膝掛けのくまのプーさん本が好き
木守柿どっと日暮の来ておりぬ
三人の小さな食卓冬銀河
 


響焔2013年3月号掲載

朱焔集

ポインセチア   米田 規子

師走来るこきんこきんと首の骨
武装して男の掃除山眠る
諦めにたどりつくまで冬の薔薇
こがらしに吾荒びおり葛根湯
晩餐というほどでなくポインセチア
極月や落ち着くところただひとつ
すっぽりと椅子に抱かれ年の果
 


響焔2013年4月号掲載

朱焔集

寒の月   米田 規子

餅のびる平和な国の一家族 (川嶋隆史、栗原節子、山口彩子抄出)
越天楽冴ゆる限りなく透明
今日終る剣のような葱二本
青空に冬芽ひしめき小学校
三毛猫と冬の太陽ついてくる
ふくらむ不安寒禽の声尖り
靴音の戛々響く寒の月
 


響焔2013年5月号掲載

朱焔集

春遅々と   米田 規子

紅梅の枝まであかく城下町 (栗原節子抄出)
春光やおにぎり持ってはるばると
てっぺん自由りんりんと梅ひらき
濃紺の男のエプロン山笑う
春遅々と鍵盤拭いてピアノ閉ず
冴え返る目覚めの水と鳥の声
協和音不協和音も武満忌
 


響焔2013年6月号掲載

響樹集

ラプソディ   米田 規子

月光ソナタ少年の冷たい手
約束をきちんと守りクロッカス
冴返る一眼レフの至近距離
沖に船梅ちらほらと風の中
建国記念日ヨガのあとハーブティー
行き先のなりゆき任せ春ショール
茫々と梅咲くころを父の国
春時雨バターの香るオムライス
壺の水仙あちこちに向き喫茶店
ものの芽や風にまぎれて園児たち
みんな出かけてパンジーの昼下がり
打ち消すきのう蛤のすまし汁
ワルツを弾いて春風になっている
よなぐもり軽い頭痛と花林糖
はくれんの風に傷みてみすゞの忌
真青なる空桜の芽の緊張
  雨止んで三年契約つくしんぼ
ざわざわと風ついてくる竹の秋
桜の芽ふくらみ母と子の時間
里山の起伏をたどり花の冷え
遠ざかる父の忌さくらさくらかな
花吹雪わが胸中のラプソディ
ひとつひとつ過ぎてゆくなり春渚


朱焔集

さくら咲く   米田 規子

さえずりや鉛筆の芯尖らせて
桃咲いていつもの時間同じ場所
春休み水玉模様のマグカップ
良好な腸内環境さくら咲く
飛花落花この身ひとつの置きどころ
 


響焔2013年7月号掲載

朱焔集

新樹光   米田 規子

行く春や湖にたゆたう白い船
捨てるもの捨て春の山登りけり (山崎聡抄出)
ひっそりと煉瓦のチャペル遠郭公
ゴンドラのぐらりと揺らぎ新樹光
これからもふたりの絆若楓
ぎこちなく始まりやがて筍飯
忽然と夕富士八十ハ夜かな
 


響焔2013年8月号掲載

朱焔集

青葉冷   米田 規子

長く垂れ少女のピアス青葉冷
白薔薇のしろの量感暮れなずむ (栗原節子抄出)
紹興酒・青椒肉絲夕薄暮
アンチエイジング夏蝶のダンスかな
青葉若葉言の葉まぎれ風少し
青芒サッカー少年ピアノ弾く
映像の終わり切なく赤い薔薇
 


響焔2013年9月号掲載

朱焔集

薔薇   米田 規子

ことのほか空美しく更衣 (山崎聡抄出)
膝に猫コーヒーブレイク梅雨深し (栗原節子抄出)
熟年や人ごえのなか薔薇の中
アカンサス自由時間を使い切り
線を引くときのためらい夾竹桃
ぼんやりとこれからのこと水羊羹
ラベンダーの風のむらさき再会す
 


響焔2013年10月号掲載

朱焔集

蝉時雨   米田 規子

明易し銀色の羽落ちている
万緑や重い扉をギイと開け
ちちははの後をおとうと草いきれ
未草約束ひとつ宙に浮き (川嶋隆史抄出)
蓮の葉を風渡り来る八月や
蝉時雨大きな穴を埋められず (山崎聡抄出)
キャンバス真白一歩踏み出して秋 (伊藤君江抄出)
 


響焔2013年11月号掲載

朱焔集

夏木立   米田 規子

不意打の死やずたずたの暑い夏
夏木立怒涛のようにラフマニノフ
天の川祈りの果てのノクターン
冬瓜を煮て長男のお嫁さん
ありがたく有機栽培完熟梨
ひぐらしや時の流れという薬 (川嶋隆史抄出)
息子のスープ甘藍の芯あまく
 


響焔2013年12月号掲載

朱焔集

露草   米田 規子

シーツ干し九月の蒼い富士の山
思い出いくつ露草のなみだ色
現在の延長線上まんじゅしゃげ
にわかに別れ月光の白い闇
長き夜のとろり我家のビーフシチュー
死者生者ふと眼前のしじみ蝶 (山崎聡、川嶋隆史抄出)
秋晴やしっかり荷造り航空便
 


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