米田規子 俳句集(2000年)


響焔2000年1月号掲載

白焔集

アップルティー

咲きのぼる青い朝顔歩け歩け(高井太郎抄出)
すすき揺れ下校の赤いランドセル
壷いっぱいの黄菊白菊カプチーノ
鵙猛り開高健の墓に酒
秋の夜アップルティーを分け合いて


白灯集

新しい帽子コスモス・金木犀
夫からのEメール待ち十三夜
秋没日富士に真向かい明日のこと
母に聞く昔のはなし零余子飯
北陸線のプラットホーム秋桜



響焔2000年2月号掲載

白焔集

紅葉山

少しずつ緊張ほぐれ秋桜
ニ〇〇〇年の足音聞こえ紅葉山
朝もみじ旅二日目の紅をひく
東京から紅葉のはがき「逢いましょう」
日曜をおもいおもいに実南天

白灯集

幾重にも山が重なりカニ雑炊
桜紅葉男の子女の子輪になって
母の顔おとうとの顔蟹さばく
将来の夢など語りホットワイン


響焔2000年3月号掲載

白焔集

冬銀河

木の葉降る大きな窓の郵便局
ふるさとの魚が届き年用意
通学の武装の如き大マスク
柚子味噌の作り方聞き柚子五つ(高井太郎)
コンサートの約束ふたつ冬銀河

白灯集

シチューことこと風邪の子が眠りおり
もみじが真っ赤二十歳の記念写真
デザート付きスペシャルランチ黄落期
キャンドルの炎まっすぐ聖夜菓子
モーツァルト師走地下街珈琲店


響焔2000年4月号掲載

平成11年度白灯賞受賞作品

明日も咲く

大鍋に肉じゃが作り体育の日
今朝の冬動く歩道の横あるく
パンジーのあかしろきいろ明日も咲く
裸木にみなぎっているこころざし
甘納豆子と猫ねむい冬の午後
絵画的フランス料理はなぐもり
長男とぼつぼつ話し葛桜
夕立のあと透きとおりドビュッシー
蔘の花お寺の前を横須賀線
歯応えのあるものを食べ防災の日

白焔集

女正月

フルーツパフェの長いスプーン女正月(和田璋子抄出)
耳に残る「ステンカラージン」寒茜
鳥の群枯木に花が咲くように
お寺から蕎麦屋に向かい黒手套(秋山石声子抄出)
二次会のコーヒー香り寒の雨

白灯集

日当たりの良い部屋猫とシクラメン
バリトンの声びりびりと冬館
園児らの声突き抜けて冬欅
日蓮の辻説法跡手足冷え


響焔2000年5月号掲載

白焔集

ふるさとは雪

ふるさとの駅に降り立ち雪しぐれ
窓に雪母の煮物の匂い満ち
雪の夜の真紅のワイン誕生日
軒氷柱母には母の暮らしかた
おとうとにコーヒーを淹れ雪の朝

白灯集

レクイエムの合唱澄みて一冬木
雪催いみなとの見える喫茶店
きさらぎや電車が電車追い越して
ラジオから甘いメロディー月冴ゆる
風光る海岸通り一丁目


響焔2000年6月号掲載

平成11年度白灯賞受賞作家特別作品

花の昼

桜山アスレチックに列ができ
ベビーカーに囲まれている桜かな
桜見に来て白うさぎ黒うさぎ
なだらかな丘のてっぺん花筵
フランスの旅が近づき花菜の黄
買物の自転車を止め花の昼
コーヒーとケーキを頼み花明り
五十代ざわざわ始まり若楓

白焔集

はこべ萌ゆ

山笑う黒い車に赤リボン
片栗の花のはじらい薄日差し
湖はエメラルドグリーン春深む
春の日やレンガ作りの村役場
風強き合戦場跡はこべ萌ゆ

白灯集

地図上のフランスとの距離春炬燵
クロッカスひとりになりたいとき歩き
ひさびさの休日赫く八重椿
春疾風お地蔵さまのちゃんちゃんこ
石仏は頬を寄せ合い花すみれ


響焔2000年7月号掲載

白焔集

メヌエット

ていねいな返事が届き桜草
山吹の黄色が揺れてメヌエット
遠くから名前を呼ばれ春の滝
花水木きのうと違う風の音
青葉若葉ノートの白い一ページ


響焔2000年8月号掲載

白焔集

青いあたま

飛行機雲新じゃがころころ茹で上がる
ドビュッシーの楽譜を買いに夏柳
フランスや乾杯という赤い薔薇
仏桑花腕高く上げジャンヌダルク
自由不自由ムスカリの青いあたま

白灯集

万緑や恋人たちのカフェテラス
病院のロビーあかるく青葉騒
夏木立いちばん奥の精神科
十薬がいっせいに咲き低い雲
オリーブの花もやもやを海に捨て


響焔2000年9月号掲載

白焔集

ポンポンダリア

雨の日のポンポンダリア逢いにゆく
ひとときを逢って別れて梅雨の蝶
こわれやすき心とおもい青林檎(秋山石声子抄出)
グラジオラスピアノを弾けば火の色に
良い兆しインパチェンスが咲きこぼれ

白灯集

ダチュラ咲き海岸廻りのバスが来る
カフェ・オレの大きなカップ麦の秋
天の声いろいろ届き釣鐘草
おおぜいで居て独りなり蛍の夜
万緑や橋のたもとで写さるる


響焔2000年10月号掲載

白焔集

夏休み

体操の手足を伸ばし今年竹
家を出てあかるいほうへ雲の峰
太陽にシーツを広げ夏休み
熱帯魚いる最上階レストラン
みんな友達大粒の黒ぶどう


響焔2000年11月号掲載

第27回響焔賞佳作一席作品

未来

蝉時雨信号渡りBUNKAMURA
バッグから扇子開演五分前
踊り子の真っ赤なドレス熱帯夜
東京晩夏ごうごうと人の波
ピアノ弾くことが安らぎ日日草
木下闇こちら見ているやさしい瞳
青柿に雨の日風の日子の未来
宵っぱり家族氷菓を分け合いて
ベートーベン「田園」を聴き雲海に
大ひまわりホテルの朝のバスタオル
桑の実を噛み海育ち山育ち
とんぼ来ておりフランスへEメール
置かれしままの白いキャンバス虫時雨
青年のこころの奥の鶏頭花
新涼や鍵盤走るわが十指

白焔集

母の庭

協和音不協和音も合歓の花
おとうとが家を建ており海紅豆
虫時雨母の手をひき母の庭
フカヒレのスープ残暑の続きおり
ふるさとやちちが抱える大西瓜(手塚酔月抄出)


響焔2000年12月号掲載

白焔集

シャンデリア

明るい色が画布にちらばり秋の風
ふるさとの梨さくさくとこころの灯
亡き父もいて秋の夜のシャンデリア
くるしいときはゆっくり歩き吾亦紅(和知喜八抄出)
新米が光っているよちちの写真

白灯集

月の夜に逢いきらきらと耳飾り
団欒の真ん中に猫いなびかり
朝のパンこんがり焼けて鵙の声
見えないけれど走って走って花野
むらさきのスカーフ纏い秋のこえ



米田規子 俳句ホームページインデックスに戻る。

ご意見をお願いします。